11/29/2011

STRADA 團紀彦


STRADA  By  團紀彦



 表参道の交差点から直ぐの所に建っているが、青山通りや参道からは全く見えない。交差点の交番横の細い路地、山陽堂書店の裏の小路を入ってチョトと行くと左側にあります。このページの第26回で紹介した「 LEMON TREE 表参道ビル」のちょうど真裏ですね。せっかくのビルで人目に触れることが少なく残念な気がしないでもないんですが、実は見えない方が、・・・・です。

 同じく第18回で紹介した「HOLON L/Rビル」の設計者と同じ、團紀彦さんが設計した建物で、團紀彦さんについては、第18回に詳しいのでそちらを見ていただければ、華麗な略歴であることが分かります。へ〜、こういう建築家なんだ、みたいな印象を持って読めるかと思いますので、是非。地下鉄の交番裏、A-3の出口を出て1分とかからない場所ですので、是非行って見てください。

 さて、STRADAと名付けられた2つのビルでありながら1つとして計画されています。このSTRADAの意味が英語の辞書にはなく、イタリア語で「道」という意味らしいのですが、どうなんでしょう。

 正面に向かって左側のビルは専門学校の「青山ファッションカレッジ」が入っています。休憩時間にぶつかると、実にファッショナブルな生徒たちがぞろぞろと外に出てきて、彼ら、彼女らのファッションを見るだけでも楽しめます。私のようなハゲのオッさんにはマネのできないファッションを実に上手く着こなし、流石にファッションカレッジの生徒さんなのです。

 向かって右側のビルには、地下に焼き肉のお店、1階にはメイク関連なのかしらね、美容ディーラーと称する会社が入ってます。「美容商材の販売から、イベントやセミナーの開催、情報誌の発刊、スタジオ運営、コンサルティングに至るまで、美容業界の発展に貢献するべく邁進しております」とネットにある会社です。多分2階もこの会社がお使いで、その上3階には、美容外科・美容皮膚科・アンチエイジングなどを専門とするクリニックが入ってますね。地下の焼き肉屋さん以外は、理容、美容、服飾関連の方々が使っているビルで、お洒落に関連するものばかりで、さすが表参道って感じではあります。そして建物もお洒落なんですよ。

 何と言っても華麗なる一族出身の團さんの設計ですから、少々メンテナンスが不足かなとも思えますが、ハイソな感じを受けます。竣工は1991年ですから既に築20年を超えていますね。外壁の腰の部分には蛇紋(じゃもん)系の大理石や御影石が貼られてますし、見上げれば幕板のごとくに帯状に蛇紋が配されています。一部コンクリートの打ち放しが見えますが、型枠に木板を使い、コンクリートの表面にその木板の跡形が出るよう意識した凝った物です。加えて、表面が錆色になっているコールテン鋼と言われる耐候性のある鋼材の板を素材のまま使ってます。一見粗雑に見せている表面と、吹き付け材と大理石の幕板できれいに仕上げた外壁とを対比させ、双方がそれぞれに表層を主張して面白い外壁を見せています。

 そして、注目すべきは中庭です。この2棟の建物は隣接する2つの敷地に建っている全く別の建物です。その全く別の建物をこの中庭が繫いでいます。敷地境界を跨いで1つの建物が物理的に繋がる以上に、見事に一体化させています。残念なことに学校の許可を得ないとこの中庭には入れませんが、外からでも十分に見渡すことはできます。決して大きくはないのですが、敷地境界を跨いで円形のオープンなスペースを作っています。ルネ・マグリットやジョルジョ・デ・キリコを思わせるような幻想の空気を包み込んでいるような気がしちゃうんですよね。

 チョイと思い過ごしかも知れませんが、シュールな空気を感じます。「街の神秘と憂鬱」というキリコの絵、ご存じないかしら。あの絵の中にある空気感みたいなものがここにはあるのよ。ない? 考えすぎ? そう? じゃーアナタ、見てきてちょうだいませよ。

 こういう空気感を持つ建築って、なかなかないんですから。小さな中庭ですけど、表参道の喧噪から1分と離れていない所にあることが凄く不思議なのよね。敷地も決して大きくなく、中庭も狭い場所ではあるんですけど、團紀彦が何かを意図して作り出した、何もない物で満たされている不思議な空間なのよね。團さんはここに何を表現したかったのか、哲学的に考えてもイイかもしれないような空間なんですよ。この空間がなければ私はこのページにご紹介はしませんでしたね。

 要するに、表参道という現実からチョット隠れた敷地に、見慣れた都市風景から乖離した場所で、現実にはあっちゃいけないような非現実的な空間があるってことなんですのよ。絵画などでは幻想絵画とかシュールレアリズムとか言われる、額の中の、2次元の世界にはあるんですけど、建築としての3次元の世界にあってもいいのかしら的な何か、夢想的と言うか、実はないのに、ここにあるような、え、ウソ、の小さな幻想空間なんですよ。

 誰しも心の中に潜在しているトラウマや悪夢、病的な妙なイメージを内包しているような中庭。宗教的な啓示や神話や民話の世界の、精霊や妖精なんかが浮遊してるように感じません? 超現実の世界が中庭に淀んでいるようなさ。瀧口修造って言う詩人がいるけど、その詩の世界みたいな、音楽で言えば武満徹の音楽みたいな、世界なのよ。チョイと支離滅裂かも知れないけど、そんな空気を私は感じちゃったんでございますよ。

 是非、一度、山陽堂書店裏の小路を入って見てください。






この原稿は、下記の人気サイト「おもてサンド」の「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。




11/23/2011

アルス ギャラリー  北河原温


アルス ギャラリー  北河原温




 表参道の通りからキャット・ストリートを渋谷方面に向かい、最初の十字路を左に、スターバックスの店を右に見て、もう少し道なりに右の方に進むと、直ぐに白い4階建ての建物が目に入ります。表参道界隈の路地裏、住宅地の一角に「白」が饒舌に建っています。

 白という色は、もの凄く派手な色だと思ってます。男は、真っ白なスーツに袖を通すことは一生涯、多分、ないんじゃないかしら。女性にはウエディング・ドレスがあります。晴れの場での最高の衣装の色として白が準備されています。ドクターが着用する白衣や、調理人、運動着、下着などは汚れを目立たせる白が基調になっています。サラリーマンのワイシャツもそうです(ワイシャツとはwhite shirtからきてますね)。しかし、作業着としての実利的な白ではなく、おしゃれ着として「白」は着こなしが難しい色です。

 建築も同じで、この真っ白な建物は決して寡黙な建物ではありません。小さな建物であっても声高に白を主張してます。竣工したのは2002年ですからそろそろ10年が経ちます。鉄筋コンクリートの建物で、角地2面、道路側の一部には、ビニールコーティングの布張りの屋根と壁が取り付いています。

 10年近く経つと少々汚れが出て、真っ白と言うわけには行きませんが、まだ白を保っています。左側の小路側にある部分は、地下ギャラリーへの明かり取りのためです。正面のギャラリーを中に入ると、左奥に地下に降りる階段室があります。そこを北側の優しい光が布を通して入り、地下の小さなギャラリーへ柔らかで心地よい光を提供しています。正面道路側に張り出している所は、アートスクールの出入り口で、こちらも地下の陶芸教室に降りる階段室と受付空間の明かり取りとなっています。

 そう、この建物はアートを扱う建物です。アート・ギャラリーと共に、アート教室(彫金、陶芸、花など)とアトリエを兼ね備え、上層部階にはオーナーの住宅があるようです。設計したのは、このサイト第28回・メトロサでご紹介した北河原温(きたがわら あつし)です。知的に飛んでるデザインが、北河原温の建築で、表参道界隈に林立する他の建物を凌駕する高度なデザイン性を惜しげもなく主張してます。尊敬すべき建築家で、私・モコモコ博士とはチョイと違うんでございますね。

 受付にいらした方のご好意で、ギャラリーや工房をお見せいただきましたが、インテリアも白です。地下はスキップフロアー的な空間構成で、陶芸の教室として、こんなにきれいで楽しげな空間は始めてみました。地下へ降りる階段の踏面(ふみずら)にガラスを使い、階段自体も鉄骨を大胆に使った構造で、地下深くまで外の光が差し込む工夫があり、暖かな気持ちでアートを学べる空間を作り出しています。1階を含め、地下空間の間仕切りには大型のガラスの間仕切りがあり、それも枠ナシで取り付き、背の高い大胆な建具(引き戸)が秀逸です。

 教室に通う為のパンフレットを頂きに、右側のドアから中に入ると、左側に受付のテーブルがあり、その奥がお花の教室です。この教室と廊下を隔てる界壁が、厚さ10ミリを超える大きなガラスになっています。床から天井まで一枚のガラスで間仕切っていますが、ここに「枠」がないんです。通常は枠を付けてその中にガラスをはめ込むものなんですが、あえて枠ナシで床と天井に、埋め込み用の溝を付け、直接ガラス板を固定しています。間仕切りの役も担っている建具も同じように枠がありません。

 実は、地下にも何枚かのガラスの間仕切りがありますが、全て、建具と共に、そうなっています。余計な線が視覚からなくなり、単純で明快、品位の高いインテリアを作り出しています。これは、一般の人には気付かない、理解しがたい高度な設計であり、注意深い施工性が要求される計画です。

 建物全体の印象やインテリアの印象は、それぞれのディテールの積み重ねから生まれます。「この空間は、何だか判らないけど洗練されている」と感じるインテリアには、必ず何らかの秘密が隠されていますが、ここは間仕切りと建具にもその辺の秘密があるのです。

 地下空間に採光する為には、普通はライト・ウェル(光の井戸)と呼ばれる穴を建物に反って掘り、地下の外壁にあたる部分に開口を設け外部から採光する方法が取られますが、ここはそのライト・ウェルを白色の布で覆い内部空間とし、階段室を計画してあります。北河原温ならではの大胆がここにあり、防火上の問題をどうクリアーしているのか疑問ではありますが、スゲーなーと思わせる部分ではあるのです。

 彫金や陶芸、お花の教室がこんな所にあるなんて全く知らないでいましたが、この建物の中でお教えいただけるのであれば、是非私も、なんて思っちゃいますね。頂いたパンフレットを見ると、それぞれにビギナー・コースなどもあるし、講師陣は北河原さんが教授を努める東京芸大出身の方々で、格調高そうです。

 ギャラリー部分は一般に公開してます。スターバックスに行ったときには、直ぐそばですので、一度、足を運んで北河原温の建築空間に身を置く事をお薦めします。建築の面白さ、奥の深さ、北河原さんの深遠なる意匠を感じることができます。是非、行ってみましょう。









この原稿は、下記の人気サイト「おもてサンド」の「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。