11/23/2011

アルス ギャラリー  北河原温


アルス ギャラリー  北河原温




 表参道の通りからキャット・ストリートを渋谷方面に向かい、最初の十字路を左に、スターバックスの店を右に見て、もう少し道なりに右の方に進むと、直ぐに白い4階建ての建物が目に入ります。表参道界隈の路地裏、住宅地の一角に「白」が饒舌に建っています。

 白という色は、もの凄く派手な色だと思ってます。男は、真っ白なスーツに袖を通すことは一生涯、多分、ないんじゃないかしら。女性にはウエディング・ドレスがあります。晴れの場での最高の衣装の色として白が準備されています。ドクターが着用する白衣や、調理人、運動着、下着などは汚れを目立たせる白が基調になっています。サラリーマンのワイシャツもそうです(ワイシャツとはwhite shirtからきてますね)。しかし、作業着としての実利的な白ではなく、おしゃれ着として「白」は着こなしが難しい色です。

 建築も同じで、この真っ白な建物は決して寡黙な建物ではありません。小さな建物であっても声高に白を主張してます。竣工したのは2002年ですからそろそろ10年が経ちます。鉄筋コンクリートの建物で、角地2面、道路側の一部には、ビニールコーティングの布張りの屋根と壁が取り付いています。

 10年近く経つと少々汚れが出て、真っ白と言うわけには行きませんが、まだ白を保っています。左側の小路側にある部分は、地下ギャラリーへの明かり取りのためです。正面のギャラリーを中に入ると、左奥に地下に降りる階段室があります。そこを北側の優しい光が布を通して入り、地下の小さなギャラリーへ柔らかで心地よい光を提供しています。正面道路側に張り出している所は、アートスクールの出入り口で、こちらも地下の陶芸教室に降りる階段室と受付空間の明かり取りとなっています。

 そう、この建物はアートを扱う建物です。アート・ギャラリーと共に、アート教室(彫金、陶芸、花など)とアトリエを兼ね備え、上層部階にはオーナーの住宅があるようです。設計したのは、このサイト第28回・メトロサでご紹介した北河原温(きたがわら あつし)です。知的に飛んでるデザインが、北河原温の建築で、表参道界隈に林立する他の建物を凌駕する高度なデザイン性を惜しげもなく主張してます。尊敬すべき建築家で、私・モコモコ博士とはチョイと違うんでございますね。

 受付にいらした方のご好意で、ギャラリーや工房をお見せいただきましたが、インテリアも白です。地下はスキップフロアー的な空間構成で、陶芸の教室として、こんなにきれいで楽しげな空間は始めてみました。地下へ降りる階段の踏面(ふみずら)にガラスを使い、階段自体も鉄骨を大胆に使った構造で、地下深くまで外の光が差し込む工夫があり、暖かな気持ちでアートを学べる空間を作り出しています。1階を含め、地下空間の間仕切りには大型のガラスの間仕切りがあり、それも枠ナシで取り付き、背の高い大胆な建具(引き戸)が秀逸です。

 教室に通う為のパンフレットを頂きに、右側のドアから中に入ると、左側に受付のテーブルがあり、その奥がお花の教室です。この教室と廊下を隔てる界壁が、厚さ10ミリを超える大きなガラスになっています。床から天井まで一枚のガラスで間仕切っていますが、ここに「枠」がないんです。通常は枠を付けてその中にガラスをはめ込むものなんですが、あえて枠ナシで床と天井に、埋め込み用の溝を付け、直接ガラス板を固定しています。間仕切りの役も担っている建具も同じように枠がありません。

 実は、地下にも何枚かのガラスの間仕切りがありますが、全て、建具と共に、そうなっています。余計な線が視覚からなくなり、単純で明快、品位の高いインテリアを作り出しています。これは、一般の人には気付かない、理解しがたい高度な設計であり、注意深い施工性が要求される計画です。

 建物全体の印象やインテリアの印象は、それぞれのディテールの積み重ねから生まれます。「この空間は、何だか判らないけど洗練されている」と感じるインテリアには、必ず何らかの秘密が隠されていますが、ここは間仕切りと建具にもその辺の秘密があるのです。

 地下空間に採光する為には、普通はライト・ウェル(光の井戸)と呼ばれる穴を建物に反って掘り、地下の外壁にあたる部分に開口を設け外部から採光する方法が取られますが、ここはそのライト・ウェルを白色の布で覆い内部空間とし、階段室を計画してあります。北河原温ならではの大胆がここにあり、防火上の問題をどうクリアーしているのか疑問ではありますが、スゲーなーと思わせる部分ではあるのです。

 彫金や陶芸、お花の教室がこんな所にあるなんて全く知らないでいましたが、この建物の中でお教えいただけるのであれば、是非私も、なんて思っちゃいますね。頂いたパンフレットを見ると、それぞれにビギナー・コースなどもあるし、講師陣は北河原さんが教授を努める東京芸大出身の方々で、格調高そうです。

 ギャラリー部分は一般に公開してます。スターバックスに行ったときには、直ぐそばですので、一度、足を運んで北河原温の建築空間に身を置く事をお薦めします。建築の面白さ、奥の深さ、北河原さんの深遠なる意匠を感じることができます。是非、行ってみましょう。









この原稿は、下記の人気サイト「おもてサンド」の「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。


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