2/09/2010

hhstyle.com/casa ビル・安藤忠雄


 キャットストリートの街並みに強烈な違和感の一発のビルです。

 実はこのビル、hhstyle.co/casaARMANI CASA店は閉店に追い込まれ、単なる貸しビルになってます。常識的でない暴力的な建築が原因した?のかも。

 現在(2009年1月)はナイキの靴屋さんが入ってます。当初のビル名は「hhstyle.co/casa」だったんですけど、今この建物は貸店舗ビルみたいね。去年(2008年)の秋口にはNTT(たぶん)のケイタイ電話のショールームだったような気がします。ナイキの靴屋さんも2009年10月までだそうです。

 hhstyle.co/casaがここでオープンしたのは4年前の20054月で、ARMANIBoffiなんかとのコラボレーションでの店舗展開だったんですよね。ARMANIにはともかく、Boffiについては馴染みのない方が多いと思うんですけど、Boffiとは、高級キッチンやバス・ルーム関連のメーカーで、めちゃくちゃに美しいデザインと金額で、世のお¥持ち御用達の会社です。イタリアのTOTOINAXみたいな感じですね。ドイツにも同じようなメーカーがあって、私も一度だけこの手の御用達キッチン・セットを入れた住宅を設計したことがありますが、キッチン・セットだけで小さな家なら建っちゃう金額でした。

 当初このビルは、ARMANI製の家具やグッズ、Boffi社製品などが展示されてるショールームでした。オープン当初は、アルマーニの社長と設計者の安藤忠雄がこの店内でテレビのインタビューなんか受けたりして、かなり派手派手でしたね。しかし、この建物でのビジネスは成立しなかったみたいね。2年前の20076月に閉店してますもん。輸入家具を販売するhhstyle.com の本店(インターオフィース社)は、一軒置いた隣のビルにあります。このサイト(hhstyle.com ビル)でご紹介している妹島和世が設計した素晴らしいビルで、今回のビルとは全く性格を異にしているモノです。建主であるインターオフィス会長は「今までの安藤建築と違う世界初で、本店とは異なる建築にしたい」と希望したらしいんですが、商業建築としては上手く行かない物になっちゃったのかしら。プロの建築家としては、お¥持ちの建主さんの住宅を設計するときには重宝してたんだけど、いつの間にか閉店しちゃってました。残念。

 構造は鉄筋コンクリートと鉄骨の混構造で、地下1階・地上2階の建物です。内部空間はスキップフロアーを基本にした一室空間で、思い切った空間構成があって好感がもてます。柱・梁とエレベーターなどが納まるコア部分が鉄筋コンクリート造で、屋根や外壁部分が鉄骨造、と言うより鉄板造みたいな感じね。外壁と屋根はスチールプレートt=12㎜・t=16㎜ でフッ素樹脂塗装の仕上げです。鉄板の形に合わせて、内側にはデッキプレートを張り、間に断熱材が挟まれているようです。通常使わない無骨さがモダンな展示品との対比になっていて、より一層商品を引き立たせていましたね。

 しかし、この12㎜とか16㎜の外壁や屋根は尋常ではないんです。実は、もの凄い事なんです。ファサード側の外壁と屋根全体が分厚いスチール・プレートで、その厚みが1.2㎝か1.6㎝ですよ。乗用車のボディー鉄板は厚さ1㎜以下の0.6㎜ほどでですからね。タンカーの船底じゃないんだからさ、こんなもん使う理由が判んネーよ、って感じで、ただただ驚いちゃうんですよ。通常の建築では使うことのない厚さです。ったく、安藤さんスゲー大胆なことするよなー、って感じっす。

 今度、このビルに行くことになったら、外壁をトイレのドアのようにノックしてみて下さい。鉄板だとは思えないような感じですから。それも溶接の跡が全く見えないように施工されてるところが、凄い。ファサード側には4つの壁面がありますが、垂直に立ち上がっているのは2面だけです。注意深く見ると、微妙に傾いているんです。屋根と壁の取り合い部分には、パラペットや樋を付けていません。雨の時には屋根に降った雨が外壁をつたうこととなります。どのような作為でそうしているのか判りませんが、既に外壁部分は雨だれのすじが付いてますけど、何の意図でそうしたのか良く判らないっすね。

 このビルの、見所の一つに道路側に開けられた、縦に小さく横に長い窓があります。あんな横長の窓を設計するのはかなりの勇気が必要です。あそこの開口部は、窓のことですけども、はめ殺しの一枚ガラスです。窓枠としてのサッシも見せていないディテールになっています。ガラスは特注で作って現場に運んで何人もの職人が動員されて取り付いています。窓のある壁は耐力壁にはならないので構造的にはかなりの不利になります。にも関わらず、建築家とはああいう事をやりたがるんですよ。私だってやってみたいもん。最近、安藤が設計した建物に六本木ミッドタウンにあるデザイン施設「21_21 DESIGN SIGHT」がありますが、このビルの裏のコンクリートの壁に同じような開口があります。最近の彼のお気に入りの窓みたいね。

 しかし、この窓、素人さんにはその大変は全く理解してもらってないみたいですね。当初は、きちんと窓として内外を隔てて建築関係者にはそれなりにアピールしてたんだけど、今はアルミのパンチング・メタルで蓋されちゃってますね。折角の労苦が全く評価されていないどころか邪魔にされてるんだもん。安藤さんが見たら泣いちゃうんじゃないかしら。

 まー、いずれにしても、かなりのお¥が掛かっているビルではあります。建主さんとしては採算度外視で安藤忠雄に設計を依頼して、超高級品を展示・販売して、赤字にならなければいいや、くらいに思ってたのかも知れないけど、かなり会社の経営を圧迫したんじゃないかしら。建築家は建主の経営までは関与しないわけで、適切な設計料を頂いて、予定の建設コスト内で設計を行う事しかできないんだけど、お¥使い過ぎちゃったんじゃないかしら。

 表参道界隈に建つビルは、企業のステイタス・シンボル的なビルが多く、アンテナショップ的な機能も持ち合わせています。通常の建設コストよりもはるかに高額な予算で建てられてはいますね。建築家としては、自分の作品が日本一のお洒落な街・表参道にできるわけで、注目もされるし、普段よりも予算的には恵まれた額での設計で、頑張っちゃうんですが、このhhstyle.co/casaは、ちょいとやり過ぎじゃないかしら。

 本店である妹島和世のhhstyle.comビルの設計コンセプトは、商業ビルのあるべき姿を感じさせる物で、設計者の取り組みもかなり立派だといえるものです。奇しくも同じ建主ではありますが、このビルは妹島和世が表現したコンセプトとは随分と違う物になってはいます。

 だからといってこのhhstyle.co/casaビルは良くない、と言ってるわけではないんですよ。エントランス部分には、他にはない緑なんか配置しちゃって、有効には使われていないような印象だけど、街並みに潤いを与えてます。だけど、建物自体の、街に与える印象が、黒くて、閉鎖的で、重たいのよ。って、否定的なことばかりだけど、建主さんの意気込みと安藤事務所の頑張りは立派なんです。

 こんな建築は、この建主さんとこの建築家とその意向を忠実に実現した工務店(竹中工務店)の3者と、潤沢な予算が相まって始めて実現できるんです。世の中に、そうそうあるもんじゃない建築ではあります。一見の価値有り、です。


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この原稿は、下記の人気サイト「おもてサンド」「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。



ジ・アイスバーグ・ビル  ベンジャミン・ウォーナー


 明治通りとの交差点から渋谷方面に行くと左側に「氷の結晶」ビルが出現する。正に「何だこれ」のインパクトの強いビルではある。強烈なオーラを放つ外観は、行き交う人の気を引いて放さない。

 Icebergとは氷山の意味であり「彫刻のようにつくり上げたクリスタルな建築を目指した」とは、設計を担当したCDICreative Designers International)のベンジャミン・ウォーナー代表だ。

 ファサードを構成するガラスの壁面は、凹凸を描きながら天に向かって建ち上がっている。縦横斜めの3次元角度を持つガラス同士をそのままで納めていて、妙に透明感を感じさせ、陽の光を得て様々な表情を見せる。表参道界隈に一つの暴力的な衝撃を与え、派手・派手しいことこの上ないビルではある。規模は地上7階、地下1階。構造はS構造・一部SRC構造で、竣工は20064月です。

 正面右側の1,2階に「Audi Forum Tokyo(アウディ フォーラム 東京)」が入る商業ビルである。営業面積を最大限確保する為に内部は無柱空間となっており、天井も高く、開放感溢れるインテリアになっている。このビルは、階高といって、床から次の階の床までの高さを6mとり、かなり贅沢に空間を構成している。マンションなどの住宅の場合には、階高は3mすら取らない場合もあることを考えると、チョット驚いてしまう。

 左右非対称の凹凸を形づくる外観は、ビルとしての常識的な形からはかけ離れ、私は嫌いではないが、何故か好きにはなれないのだ。何故だろう。少々考えてみた。

 この建物がニューヨークやロンドンにあれば「さすが海外の建築家は大胆だなー」と惚れ込むと思う。だが、しかし、ここは日本だ、東京だ。このアイスバーグ・ビルは、何故か日本の建物とは言えないような気がしてしまう。設計者は英国人。日本にCDIという設計事務所を構えて、東京を拠点に日本全国、東南アジアでの設計を手がけている。表参道界隈にも彼の手がけたビルは多い。大きいビルであれば、1,2階に洋服屋さんの「ZARA」が入ったヴェロックス28・ビルがある。そう、このアイスバーグ・ビルの前の明治通りを新宿方面に歩き、GAPの交差点を左に原宿駅方面に坂を登る途中の左側にあるビルだ。他に私の事務所の直ぐそばに、今年(2008年)夏頃に竣工した「portofino」のショッピング・コンプレックスがある。セント・グレース・大聖堂と名付けられた結婚式場の前の、できたてのショッピング・コンプレックスで、まだテナントが数軒しか入ってなくてチョット淋しい印象を与えるが、建築的には大聖堂よりはるかに良くできている。

 他に小さなモノが幾つかあるが、どのビルをみても強烈な印象を与えるのだが、私の感性をくすぐらない。一言で言えば、大味な感じがするのだ。日本人の、日本人による、日本人のための、空間やディテールに拘りが感じられない、ような気がする。ビルの建主はいずれも、香港の不動産開発・投資会社ヴェロックス・シティ・インベストメントだ。どういう理由か良く判らないが、いずれのビルも竣工時にテナントが100%入らないままにオープンしている。折角の記念すべき完成時にテナントが埋まっていない寂しさを引きずる。

 日本のかつての建物には、侘び寂び(わびさび)の形容で代表されるような建物文化や、それとは真逆の「伝統はパンクだ」とも思えるような百花繚乱の煌びやかな日光東照宮や歌舞伎的な文化が源にある。日本人は良く判らない、二面性を持つとも言える2つの文化だ。現在の日本人の設計による建物には、その源流にこの辺の日本人のDNAが感じ取れるのが普通だ。肌に合うってヤツですな。しかしながら、このベンジャミン・ウォーナー氏には、そのDNAは流れていない。英国で生まれ育ち、東京工大の大学院だったけ、を出て、一時英国に戻って、リチャード・ロジャースに師事している。

 (リチャード・ロジャースというのは、同世代のノーマン・フォスターと自分たちの妻たちの4人の建築家とともに「チーム4」という建築の実験集団を結成した人なんですけどね。まーこの手の人の流れを汲んでいれば、私とは馴染まないかも、ですかな。)

 どういう切っ掛けなのか、日本で設計の仕事をしてるんだけど、彼の作品群からは、明らかに日本人のテイストとは異なる感性を感じる。不特定多数の人を相手にする大きな建物にあって、彼のその感性は十分に発揮され、面白い建物であることは間違いないんだが、私の感性とはどこか歯車がかみ合わないところがあるのよね。やっぱ、日本人のDNAとは違う何かを感じる。

 いいんですよ、強烈な印象で、大胆不敵なデザインで、中途半端さは感じないし、私は嫌いじゃないのよ。こういうのがあってもいいんだけど、東京、原宿・表参道にはなくていいよ、って感じね。

 海外の建築家の作品も多いこの辺だけど、設計の中にどこか日本的なモノを感じ取れるのが通常なんですよね。何で、ベンジャミン・ウォーナーのモノだけはそれを感じないんだろう。不思議だ、やっぱよく判らない。今後ご紹介したいイタリア系スイス人が唯一日本で設計したビルが、キラー通りにあるんでそちらも後日ご紹介しますけど、そっちと比較してみてちょうだい。何故か、そっちは凄くいいテイストなんですよ。建築家の名前?マリオ・ボッタっつう人です。第1回目で紹介したスパイラルの2階待合室に並んでいるアルミの椅子を設計した人です。お楽しみに。


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2/02/2010

国立代々木競技場 丹下健三


 今回は、日本を代表する現代建築。20世紀を代表する世紀の建築でございます。表参道の西の端を締めくくる所に、実はとてつもない建造物が建ってます。「国立屋内総合競技場」、「代々木オリンピックプール」、「代々木競技場」、等々いろいろな呼び名を持つ、丹下健三設計の「国立代々木競技場」です。

 1960年代、戦後と言う言葉通りの東京に、オリンピックの開催が決まったのだ。日本の経済は非常なスピードで成長し、世界に日本をアピールする絶好のチャンスだった。そう、ついこの間の中国の北京オリンピックみたいなもんですね。東大の丹下健三と坪井善勝(構造設計者)が手を組んで、とんでもない物を設計し、創ってしまった。40代の丹下を支えたのは、20代の若き革命的建築家たちと構造設計者たちだった。

 世界に類のないサスペンション構造の建築を創り出した。世の中に存在しない、どこかのマネをすることは一切許されない、オリジナリティー溢れる革新的な建築物だ。15,000人を収容する競技場内には屋根を支える柱は一本もないのだ。そんなスゲー建物が、表参道にある。「国立代々木競技場」だ。既に、築45年ではあるが、メンテナンスも行き届き、未だに光り輝いている。

 意匠設計を担当した丹下さんは200591歳でなくなっているが、国立代々木競技場は未だに生き続けている。競技場は、いつか必ずや寿命を迎えるが、丹下さんの設計した建物以上の物に取って代わる事ができるのか、・・・、どうなんだろう。私、モコモコ博士が死んだ後に解答が出る。

 自然界にも先ず存在し得ない雄大な形態は、人智の結晶であり、日本の建築技術を全世界に十分アピールした。日本の丹下は「世界のタンゲ」になった。ケーブルを用いた吊り構造の建築は、世界に先例のないものだった。日本の伝統建築を踏まえ、未来を見据え、日本独自の現代建築は、いかにあるべきかを世に問う、大見得を切れる作品と言える。

 東京オリンピック前、ここはワシントン・ハイツと呼ばれ、米軍が駐留していた。広大な敷地には、一千世帯近いアメリカ軍家族宿舎や共有施設として、将校クラブ、劇場、教会なんかがあったらしい。アメリカっていう国はね、世界中どこでも自分たちの軍隊のための施設を作るのね、今でも。サウジアラビアの米軍基地に入ったことあるけど、アメリカの田舎町と何ら代わらなくて、ホント、ビックリしたことがある。そんな空間があそこにはあったのよ。日本人は立ち入り禁止地域だったのね。表参道のキディーランドは米軍家族を相手にオモチャを売っていた所で、表参道自体がワシントン・ハイツの米国人を相手にする、異国情緒を醸し出す街だったのね。そして、今の表参道の人気に繋がってるんだからね。ワシントン・ハイツがなかったら表参道は単なる明治神宮の参道でしかないんだから。

 代々木上原で育った私は、子どもの頃、ここの金網を破って芝生の別天地に進入し、白いヘルメットにMPとあった兵士に追いかけられ、その肩から下げたライフルで確実に殺されると思い、泣く間もなく、血相を変えながら必死に逃げた記憶がありますね。東京オリンピックを機にここの宿舎が選手村となり、この競技場と今の代々木公園との間に4車線の道路が引かれたのよ。私が子どもの頃、道作ってたもん。現在は、この一角にはNHKなんかも建っているけど、都心にあっても、空が大きいところで表参道から原宿駅の向こう渋谷側は商業施設もなく公園なんかが広がってるのはそのためなんだからね。

 話戻して、代々木の競技場は、総合意匠・丹下健三、構造設計・坪井善勝、設備設計・井上宇市、の日本建築界のそれぞれを代表する三氏によって設計されたのね。スタッフの平均年令は20代だった、って聞いたことがありますけどね。コンピュータもない時代に、良くやったよ、ほんと、感心しちゃう。建設工事期間はわずかに1年半だったみたいね。当時、私は小学生でしょ、オリンピックの年は中学生だったけど。

 オリンピックの翌年の夏には「こどもプール」がオープンして、私も自転車で何度か行ったことがありましたね。「家族が一緒にスポーツを楽しむ、レクリエーションの場」としてのスポーツ振興策が実施されるようになって、今では、第二の方ではプロレスの会場によく使われてるみたいね。 第一の方ではコンサートなんかもあるみたいだけど、音はきっと、武道館と同じように悪いと思う。

 今だに、外観の構造美やエントランスから内部競技場へいたるアプローチに秀逸を感じますね。やっぱ、美しいですよ。あんな格好の建物、未だに普通の建築家じゃできないですね。人の流れをスムースにする巴型の平面計画とサスペンション(吊り)構造による、吊られた屋根の大空間構成は、どこか伝統的な、構造体をそのまま見せるという、日本美を醸し出してるような気がしないでもない。それらを可能にした構造技術者の英知、現場の職人の手腕なんかは凄い物があると思う。当初は、換気だけで涼を得るための大型ノズルなんかも意匠的に美しいと思いますモンね。今は冷房設備が入っているらしいけど。

 横方向の最大スパン(柱と柱の距離をスパンと言う)は120m、で、縦方向スパン44m、とかなり巨大ですからね。その中に柱がないんですよ、これは建築的には大変な事なんだから。メインケーブルの最高点は地上27.5m。屋根はメインケーブルから競技場外周にかけて走る多数の吊り材で形成され、緊張するワイヤーロープが織りなす、流れるような曲面が壮大で流麗な、内外の空間をつくりだしているんですね。

 設計者・丹下さんにとっても、日本にとっても、時代にとっても、モニュメンタルな建築です。それが表参道にあるんです。ブランド物のバッグを買ったついでに見に行くだけじゃ、ちょっとかわいそうな気がする、くらいにスゲー建物っす。



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hhstyle.com ビル 妹島和世

 「えっ、なにこのビル、ウソでしょ、どうやってんだろう」との印象を持つのが、プロの設計屋です。素人の方は、全面ガラス張りの明るいショップくらいの印象で、何も考えずに入って行くんでしょうが、プロは違います。

 お店の前に立ってビルに対峙すると、端から端まで全てガラス張りです。全面ガラス張りと言うことは、地震時の横方向の耐震壁がないと言うことです。通常であれば、どっかしらに必ず壁があります。地震の時の、横方向の水平耐力を負担する壁が必ずあるモンなんです。ところがこのビルにはそれがないんです。と言うことは、地震時において横方向の震動で、この建物は必ず崩れることになります。

 「ウソだろう」との印象は、これだと確実に構造計算上成立しない、ということの表れです。縦方向には、両脇に壁がありますからその壁の全部ないしは一部が耐震壁となっていて「ウソだろう」の印象外ですが、横方向がないんです。ブレースといって鉄筋や鉄骨を使っての筋交いもないんです。どうなってんだろう?

 私は、構造一級建築士ではないので、はっきりしたことは断言できませんが、答えは内部にありました。階段です(実は、これ、考えすぎ。末尾の追記を必ずお読み下さい)。

 階段の「ささら桁(けた)」と呼ばれる段板を支える両脇の登り桁が筋交いの機能を兼ねている、と考えられます。この建物の階段は異常に緩い階段です。途中に踊り場もありません。そのスロープとも言えそうな緩い階段の、両サイドのささら桁が1階と2階の床スラブ(構造体としての床のこと)、2階と3階のスラブと緊結され、水平方向の地震耐力を負担している、と考えるのが妥当だと思います。すごいところに目を付けたわけで、プロであっても気付かない人は多いと思います。

 家具を売るお店の建物ですが、鉄骨造で建物自体の自重を極力小さく押さえてます。これも地震力を少なく押さえる一つです。鉄筋コンクリートの建物ではこうはゆきません。建物の中にはいると、この建物は軽く造っている事が明確に判ります。鉄骨造の3階建てですが、垂直荷重を負担する鉄骨の丸柱は必要最小限の細さで、露出させています。余計な間仕切りはありませんし、天井も張ってません。見えるのはガラスの開口部と両脇の壁、階段だけです。ここまで軽量化した商業ビルは、そんなにもないはずです。

 中にはいると気付くのですが、ガラス面は前面だけでなく反対側の奥も全部ガラス張りになってます。これは構造上、偏芯を嫌ったと言うことです。即ち、構造上のバランスを考えて、奥の壁に耐力を負担させると地震で地べたが揺れたときに、建物に妙な歪みを生むことを避けた、と言うことです。判るかな〜。判んなくてもイイっす。この辺の心配はプロの構造一級建築士が心配することです。がしかし、要するに、バランス良く建物を揺らすように考えてのことです。ただ単に、何でもイイから耐力壁を置けば地震に強い建物ができる、と言うモノではないんです。強い所と弱い所の力のバランスが崩れて、結果建物がねじれて、倒壊する危険が増すんです。

 だから、今盛んに行われている耐震補強工事でも、バランス悪く耐震工事をすれば、かえって弱いところに地震力が流れて、そこから倒壊しちゃうんです。せっかくお¥を掛けて改修しても、かえって地震に弱い建物になちゃうこととなり、やぶ蛇なんですね。やるんだったら、きちんと構造一級建築士の資格を持つプロの指示に従うことです。

 通常の商業ビルは、高級感を出そうとしたり、奇抜な空間を演出しようとしたりで、品がないんですよ。建築としての品格が欠落してます。この建物には、そのような作為はどこにもなく、実にすばらしい建物と言えます。建築家としての、建主や使う人への配慮あふれるビルであり、設計者の常識や質の高さを感じさせます。

 設計したのは、あのDior をやった妹島和世女史です。Diorは表参道に妖艶なウエディング・ドレスを構築しましたが、骨組みは制震構造の優れものです。今回のhhstyle.com ビルの構造も、憎らしいほど単純明快で、軽量化を追求した鉄骨造のビルです。竣工は2000年で建物用途は店舗です。

 海外の家具を扱うインテリア・ショップ「hhstyle.com」で、ヨーロッパを中心に「vitra」、「USM」、「ClassiCon」、「ARMANI CASA」、「Boffi」などの有名ブランドを扱ってます。1階ショールームの階段の下あたりにキャッシャー・カウンターがあって、おネーちゃんが一人座ってました。「内部の写真、撮ってもいいかしら」とダメ元でお訊きしたところ、実ににこやかな笑顔と共に「はい、どうぞ」とのご返事でした。ファッション関係のビルが多い表参道のショップで、内部の写真を快く撮らせていただけたのは、ここだけです。今後、家具を求めるときには、先ず、このお店のモノをチェックしたい。みなさんも、イイ家具を揃えたいと思ったときには、この「hhstyle.com」に出かけましょう。インテリアの写真撮影を快く承諾するよう社員教育してくれる店のオーナーに悪い人はいません。儲け主義に走っていない経営者だと思います。スタッフのおネーちゃんも美人で、感じが良くて、私、こういうお店、大好き。


追記(11/4/2009

 上記に「階段のささら桁が、水平方向の地震耐力を負担している、と考えるのが妥当だと思います。」と書いていますが、改めて日経アーキテクチュア(20010430日号)を読み返してみると、構造に言及した記述の中に、階段のササラが構造体力上、横方向の水平力を負担していることは、一切書かれていませんでした。私モコモコ博士の考えすぎのようです。水平方向の地震力は、多分、奥右手の商品搬入の為のスペースに使われている壁のみで負担しているのだと思います。

 いずれにしても建物を軽く造り、水平力を小さくして地震に耐えうる構造としていることは間違いないわけで、意匠と構造、両者の設計に対する真摯な態度は立派です。もし、私の考えすぎ、思い違いでご迷惑を掛けた方がいらっしゃれば、心より陳謝します。すみませんでした。


 加えて、もう一つ、テナントさんが代わるみたいです。キディーランドの仮店舗になる見たいですね。このページに詳しくあります。(7/14/2010 追記)



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