2/02/2010

hhstyle.com ビル 妹島和世

 「えっ、なにこのビル、ウソでしょ、どうやってんだろう」との印象を持つのが、プロの設計屋です。素人の方は、全面ガラス張りの明るいショップくらいの印象で、何も考えずに入って行くんでしょうが、プロは違います。

 お店の前に立ってビルに対峙すると、端から端まで全てガラス張りです。全面ガラス張りと言うことは、地震時の横方向の耐震壁がないと言うことです。通常であれば、どっかしらに必ず壁があります。地震の時の、横方向の水平耐力を負担する壁が必ずあるモンなんです。ところがこのビルにはそれがないんです。と言うことは、地震時において横方向の震動で、この建物は必ず崩れることになります。

 「ウソだろう」との印象は、これだと確実に構造計算上成立しない、ということの表れです。縦方向には、両脇に壁がありますからその壁の全部ないしは一部が耐震壁となっていて「ウソだろう」の印象外ですが、横方向がないんです。ブレースといって鉄筋や鉄骨を使っての筋交いもないんです。どうなってんだろう?

 私は、構造一級建築士ではないので、はっきりしたことは断言できませんが、答えは内部にありました。階段です(実は、これ、考えすぎ。末尾の追記を必ずお読み下さい)。

 階段の「ささら桁(けた)」と呼ばれる段板を支える両脇の登り桁が筋交いの機能を兼ねている、と考えられます。この建物の階段は異常に緩い階段です。途中に踊り場もありません。そのスロープとも言えそうな緩い階段の、両サイドのささら桁が1階と2階の床スラブ(構造体としての床のこと)、2階と3階のスラブと緊結され、水平方向の地震耐力を負担している、と考えるのが妥当だと思います。すごいところに目を付けたわけで、プロであっても気付かない人は多いと思います。

 家具を売るお店の建物ですが、鉄骨造で建物自体の自重を極力小さく押さえてます。これも地震力を少なく押さえる一つです。鉄筋コンクリートの建物ではこうはゆきません。建物の中にはいると、この建物は軽く造っている事が明確に判ります。鉄骨造の3階建てですが、垂直荷重を負担する鉄骨の丸柱は必要最小限の細さで、露出させています。余計な間仕切りはありませんし、天井も張ってません。見えるのはガラスの開口部と両脇の壁、階段だけです。ここまで軽量化した商業ビルは、そんなにもないはずです。

 中にはいると気付くのですが、ガラス面は前面だけでなく反対側の奥も全部ガラス張りになってます。これは構造上、偏芯を嫌ったと言うことです。即ち、構造上のバランスを考えて、奥の壁に耐力を負担させると地震で地べたが揺れたときに、建物に妙な歪みを生むことを避けた、と言うことです。判るかな〜。判んなくてもイイっす。この辺の心配はプロの構造一級建築士が心配することです。がしかし、要するに、バランス良く建物を揺らすように考えてのことです。ただ単に、何でもイイから耐力壁を置けば地震に強い建物ができる、と言うモノではないんです。強い所と弱い所の力のバランスが崩れて、結果建物がねじれて、倒壊する危険が増すんです。

 だから、今盛んに行われている耐震補強工事でも、バランス悪く耐震工事をすれば、かえって弱いところに地震力が流れて、そこから倒壊しちゃうんです。せっかくお¥を掛けて改修しても、かえって地震に弱い建物になちゃうこととなり、やぶ蛇なんですね。やるんだったら、きちんと構造一級建築士の資格を持つプロの指示に従うことです。

 通常の商業ビルは、高級感を出そうとしたり、奇抜な空間を演出しようとしたりで、品がないんですよ。建築としての品格が欠落してます。この建物には、そのような作為はどこにもなく、実にすばらしい建物と言えます。建築家としての、建主や使う人への配慮あふれるビルであり、設計者の常識や質の高さを感じさせます。

 設計したのは、あのDior をやった妹島和世女史です。Diorは表参道に妖艶なウエディング・ドレスを構築しましたが、骨組みは制震構造の優れものです。今回のhhstyle.com ビルの構造も、憎らしいほど単純明快で、軽量化を追求した鉄骨造のビルです。竣工は2000年で建物用途は店舗です。

 海外の家具を扱うインテリア・ショップ「hhstyle.com」で、ヨーロッパを中心に「vitra」、「USM」、「ClassiCon」、「ARMANI CASA」、「Boffi」などの有名ブランドを扱ってます。1階ショールームの階段の下あたりにキャッシャー・カウンターがあって、おネーちゃんが一人座ってました。「内部の写真、撮ってもいいかしら」とダメ元でお訊きしたところ、実ににこやかな笑顔と共に「はい、どうぞ」とのご返事でした。ファッション関係のビルが多い表参道のショップで、内部の写真を快く撮らせていただけたのは、ここだけです。今後、家具を求めるときには、先ず、このお店のモノをチェックしたい。みなさんも、イイ家具を揃えたいと思ったときには、この「hhstyle.com」に出かけましょう。インテリアの写真撮影を快く承諾するよう社員教育してくれる店のオーナーに悪い人はいません。儲け主義に走っていない経営者だと思います。スタッフのおネーちゃんも美人で、感じが良くて、私、こういうお店、大好き。


追記(11/4/2009

 上記に「階段のささら桁が、水平方向の地震耐力を負担している、と考えるのが妥当だと思います。」と書いていますが、改めて日経アーキテクチュア(20010430日号)を読み返してみると、構造に言及した記述の中に、階段のササラが構造体力上、横方向の水平力を負担していることは、一切書かれていませんでした。私モコモコ博士の考えすぎのようです。水平方向の地震力は、多分、奥右手の商品搬入の為のスペースに使われている壁のみで負担しているのだと思います。

 いずれにしても建物を軽く造り、水平力を小さくして地震に耐えうる構造としていることは間違いないわけで、意匠と構造、両者の設計に対する真摯な態度は立派です。もし、私の考えすぎ、思い違いでご迷惑を掛けた方がいらっしゃれば、心より陳謝します。すみませんでした。


 加えて、もう一つ、テナントさんが代わるみたいです。キディーランドの仮店舗になる見たいですね。このページに詳しくあります。(7/14/2010 追記)



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