
キャットストリートの街並みに強烈な違和感の一発のビルです。
実はこのビル、hhstyle.com/casa・ARMANI CASA店は閉店に追い込まれ、単なる貸しビルになってます。常識的でない暴力的な建築が原因した?のかも。
現在(2009年1月)はナイキの靴屋さんが入ってます。当初のビル名は「hhstyle.com/casa」だったんですけど、今この建物は貸店舗ビルみたいね。去年(2008年)の秋口にはNTT(たぶん)のケイタイ電話のショールームだったような気がします。ナイキの靴屋さんも2009年10月までだそうです。
hhstyle.com/casaがここでオープンしたのは4年前の2005年4月で、ARMANIやBoffiなんかとのコラボレーションでの店舗展開だったんですよね。ARMANIにはともかく、Boffiについては馴染みのない方が多いと思うんですけど、Boffi社とは、高級キッチンやバス・ルーム関連のメーカーで、めちゃくちゃに美しいデザインと金額で、世のお¥持ち御用達の会社です。イタリアのTOTOやINAXみたいな感じですね。ドイツにも同じようなメーカーがあって、私も一度だけこの手の御用達キッチン・セットを入れた住宅を設計したことがありますが、キッチン・セットだけで小さな家なら建っちゃう金額でした。
当初このビルは、ARMANI製の家具やグッズ、Boffi社製品などが展示されてるショールームでした。オープン当初は、アルマーニの社長と設計者の安藤忠雄がこの店内でテレビのインタビューなんか受けたりして、かなり派手派手でしたね。しかし、この建物でのビジネスは成立しなかったみたいね。2年前の2007年6月に閉店してますもん。輸入家具を販売するhhstyle.com の本店(インターオフィース社)は、一軒置いた隣のビルにあります。このサイト(hhstyle.com ビル)でご紹介している妹島和世が設計した素晴らしいビルで、今回のビルとは全く性格を異にしているモノです。建主であるインターオフィス会長は「今までの安藤建築と違う世界初で、本店とは異なる建築にしたい」と希望したらしいんですが、商業建築としては上手く行かない物になっちゃったのかしら。プロの建築家としては、お¥持ちの建主さんの住宅を設計するときには重宝してたんだけど、いつの間にか閉店しちゃってました。残念。
構造は鉄筋コンクリートと鉄骨の混構造で、地下1階・地上2階の建物です。内部空間はスキップフロアーを基本にした一室空間で、思い切った空間構成があって好感がもてます。柱・梁とエレベーターなどが納まるコア部分が鉄筋コンクリート造で、屋根や外壁部分が鉄骨造、と言うより鉄板造みたいな感じね。外壁と屋根はスチールプレートt=12㎜・t=16㎜ でフッ素樹脂塗装の仕上げです。鉄板の形に合わせて、内側にはデッキプレートを張り、間に断熱材が挟まれているようです。通常使わない無骨さがモダンな展示品との対比になっていて、より一層商品を引き立たせていましたね。
しかし、この12㎜とか16㎜の外壁や屋根は尋常ではないんです。実は、もの凄い事なんです。ファサード側の外壁と屋根全体が分厚いスチール・プレートで、その厚みが1.2㎝か1.6㎝ですよ。乗用車のボディー鉄板は厚さ1㎜以下の0.6㎜ほどでですからね。タンカーの船底じゃないんだからさ、こんなもん使う理由が判んネーよ、って感じで、ただただ驚いちゃうんですよ。通常の建築では使うことのない厚さです。ったく、安藤さんスゲー大胆なことするよなー、って感じっす。
今度、このビルに行くことになったら、外壁をトイレのドアのようにノックしてみて下さい。鉄板だとは思えないような感じですから。それも溶接の跡が全く見えないように施工されてるところが、凄い。ファサード側には4つの壁面がありますが、垂直に立ち上がっているのは2面だけです。注意深く見ると、微妙に傾いているんです。屋根と壁の取り合い部分には、パラペットや樋を付けていません。雨の時には屋根に降った雨が外壁をつたうこととなります。どのような作為でそうしているのか判りませんが、既に外壁部分は雨だれのすじが付いてますけど、何の意図でそうしたのか良く判らないっすね。
このビルの、見所の一つに道路側に開けられた、縦に小さく横に長い窓があります。あんな横長の窓を設計するのはかなりの勇気が必要です。あそこの開口部は、窓のことですけども、はめ殺しの一枚ガラスです。窓枠としてのサッシも見せていないディテールになっています。ガラスは特注で作って現場に運んで何人もの職人が動員されて取り付いています。窓のある壁は耐力壁にはならないので構造的にはかなりの不利になります。にも関わらず、建築家とはああいう事をやりたがるんですよ。私だってやってみたいもん。最近、安藤が設計した建物に六本木ミッドタウンにあるデザイン施設「21_21 DESIGN SIGHT」がありますが、このビルの裏のコンクリートの壁に同じような開口があります。最近の彼のお気に入りの窓みたいね。
しかし、この窓、素人さんにはその大変は全く理解してもらってないみたいですね。当初は、きちんと窓として内外を隔てて建築関係者にはそれなりにアピールしてたんだけど、今はアルミのパンチング・メタルで蓋されちゃってますね。折角の労苦が全く評価されていないどころか邪魔にされてるんだもん。安藤さんが見たら泣いちゃうんじゃないかしら。
まー、いずれにしても、かなりのお¥が掛かっているビルではあります。建主さんとしては採算度外視で安藤忠雄に設計を依頼して、超高級品を展示・販売して、赤字にならなければいいや、くらいに思ってたのかも知れないけど、かなり会社の経営を圧迫したんじゃないかしら。建築家は建主の経営までは関与しないわけで、適切な設計料を頂いて、予定の建設コスト内で設計を行う事しかできないんだけど、お¥使い過ぎちゃったんじゃないかしら。
表参道界隈に建つビルは、企業のステイタス・シンボル的なビルが多く、アンテナショップ的な機能も持ち合わせています。通常の建設コストよりもはるかに高額な予算で建てられてはいますね。建築家としては、自分の作品が日本一のお洒落な街・表参道にできるわけで、注目もされるし、普段よりも予算的には恵まれた額での設計で、頑張っちゃうんですが、このhhstyle.com/casaは、ちょいとやり過ぎじゃないかしら。
本店である妹島和世のhhstyle.comビルの設計コンセプトは、商業ビルのあるべき姿を感じさせる物で、設計者の取り組みもかなり立派だといえるものです。奇しくも同じ建主ではありますが、このビルは妹島和世が表現したコンセプトとは随分と違う物になってはいます。
だからといってこのhhstyle.com/casaビルは良くない、と言ってるわけではないんですよ。エントランス部分には、他にはない緑なんか配置しちゃって、有効には使われていないような印象だけど、街並みに潤いを与えてます。だけど、建物自体の、街に与える印象が、黒くて、閉鎖的で、重たいのよ。って、否定的なことばかりだけど、建主さんの意気込みと安藤事務所の頑張りは立派なんです。
こんな建築は、この建主さんとこの建築家とその意向を忠実に実現した工務店(竹中工務店)の3者と、潤沢な予算が相まって始めて実現できるんです。世の中に、そうそうあるもんじゃない建築ではあります。一見の価値有り、です。
この原稿は、下記の人気サイト「おもてサンド」の「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。
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