
今回は、私一押しの喫茶空間、ヨックモックです。表参道界隈で最も品のある、落ち着いたお店ですね。私のようなセレブリティー(?)御用達のお店でございます。オープンしてから30年以上ですからね。
竣工は1978年4月。設計したのは藤本昌也率いる「現代計画研究所」と竣工10年後(1988年)に改装を担当した今村雅樹です。2人とも知る人ぞ知る建築家で、藤本昌也は日本建築士会連合会の会長でもあります。今村雅樹は「今村雅樹アーキテクツ」を主宰しています。二人とも各種の受賞歴があり、このヨックモックの建物で、藤本氏は1980年「建設業協会賞」を、今村氏は1993年「商環境デザイン賞」をそれぞれ受賞されています。このヨックモック本社ビルは、それだけ注目を浴びたビルなんです。
ヨックモックは子供の頃から親しんでいる洋菓子屋さんで、お土産などで頂いたモノがチョッと気取ったオヤツに出てきたりしてました。泉屋のクッキーも美味しいのですが、ヨックモックのクッキーはソフトな歯ごたえで泉屋と一線を画しています。アメリカ人の友人の中に、このヨックモックに目がない奴がいます。そりゃそうです、アメリカ人にはこれだけ繊細なクッキーは作れない、ような気がします。
本店の建物は、中庭を囲むようにしてシンメトリックに建物が建っています。鉄筋コンクリート造、地上3階、地下1階建てで、特注の青と白のタイルが外壁を覆っています。クッキーと同じように繊細な建物ではあるのですが、なんでファサード側に青いタイルで、中庭側には白のタイルなんだろう、との不思議を未だに持ち続けています。表参道の交差点からプラダ・ビルを超えて直ぐの所、右側に建ってます。深いブルーのタイルが目に入りますが、そんなに目立つビルではないので、通り過ぎちゃうかも。
建蔽率60%の敷地にあって、58.7%の建築面積で、空いた空間の殆どをオープン・テラスにしてあります。表参道界隈で、このような「庭」を持つ建物は珍しいですね。都内でもそんなにない敷地構成と言えます。解放された外部テラスのテーブル席に座ると、歩道側にチョッとだけ開いてはいますが、ほぼ4方を建物に囲まれ、通りの喧噪から隔離され、落ち着いた静けささえ感じることができます。中央付近には1本の高木が立ち、緑も豊富に配置され、肌に馴染む空気がやさしい所です。春秋のデートには最適。
こんな環境の中で、お茶や食事ができる所はそんなにありません。寒い日や暑い日、雨や風の強い日には利用価値のない空間です。そんなお¥にならない空間を作り出すためには、建主さんの一大英断英断が必要で、美味しいクッキーを世に送り続けるヨックモックさんのその辺の姿勢に脱帽なのです。私は、泉屋のクッキーも、実は好きなのですが、ヨックモックさんの方を高く評価したい理由がその辺にあります。
地下や2、3階の計画がどうなっているのか判りませんが、多分、そんなに使い勝手は良くないと思います。執務スペースは全部狭いだろうし、ショップとダイニングのスペースが分断されてます。厨房への車専用アプローチも見あたりませんもんね。そして、この建物の唯一の欠点は、雨に対する配慮が欠けているんです。そう、傘を差すスペースがないんです。中庭に通じる出入り口のドアーは、雨が降るとドアの内側まで濡れちゃう筈です。一部のアルミサッシの窓もそうなんですが、従業員の方の建物に対するクレームは、だいたい想像できますね。「社長、もう築30年過ぎてますし、建て替えませんか」なんて言われてんじゃないかしら。
この建物は訪れるお客様中心に計画されていて、お客として利用するときには、本当に気持ちよく使えます。内部の喫茶スペースにしても、外の歩道を歩く人からは、中のお客さんのテーブルの上は、全く見えないように計画されてますし、お客さんと歩行者の視線をずらしてあります。ダイニングの床のレベルが高くなっているんです。歩道側の大きな窓の位置は、外部からは視認しにくくなってますが、テーブルにいるお客様からは歩道を歩く人はよく見えるんです。中庭を含め、外部空間を上手く内部に取り込んでいる計画と言えます。
人間って、食べているモノや所を他人から見られるのって、恥ずかしいじゃないですか。少なくとも気持ちよくはないでしょ。その辺の微妙とも言える神経を大切に考えての計画なんだと私は思っています。売っているクッキーと同じように繊細さを感じるんです。反面、ウエイトレスのお姉ちゃんにとっては床の上がり下がりが面倒なはずです。それなりの注意が必要で、疲れると思うなー。社長、建て替えちゃダメですよ。
表参道にはいくらでも、お茶やコーヒーを頂く場所がありますが、ここのヨックモックは最上級のお店です。テーブルに並ぶお菓子やコーヒー、それを囲む空間、テーブルまで持ってきてくださるウエイトレスのお姉ちゃんたちのおもてなしの対応、全て、感じいいっす。コーヒーは、お替わりOKで、そのたびにホイップしたクリームが付いてくるのも、なんとも嬉しくて、又行っちゃうんですよ。美女を連れたハゲかかったオッさんがいたら、私です。
この原稿は、人気サイト「おもてサンド」の「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。
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