3/03/2010

HOLON L/R 團 紀彦


 「るにんせん」と言うタイトルの小説、ご存じですか? 6年前に出版され、奥田瑛二によって企画/監督され、松坂慶子主演で映画化もされました。原作は團 紀彦と言う建築家です。

 團 紀彦とは、言わずと知れた作曲家・團伊玖磨氏のご子息に当たる人です。そうです、息子は音楽家にはならず建築家になってます。オマケに小説なんか書いたりして、建築家の素養の中に文章を構成する能力が隠されて居るのかも知れません。なんてね、私も本を書いたり小説書いたりしてますけど、某文学賞で最終選考まで残りましたが、今は単なる燃えるゴミになっちゃってます。

 で、今回「るにんせん」を読んでみました。悔しいけど、すばらしい小説でした。「るにんせん」とは「流人船」であることを知りました。建築家らしい緻密な下調べに裏打ちされ、歴史上の類推の上に小説家としての推測を巧みに組み込んで一つの物語を構築しています。内容は、江戸末期の天保9年(1838年)に起きた流人による、島流し先である八丈島からの脱獄、抜け舟事件を題材としてます。伊能忠敬の測量によって制作した地図にまつわるあれこれの、推測に基づいてのストーリー展開です。歴史の断片が今に伝える「何故」を「多分こうだろう」と仮定すると、全ての謎が解けてくることがありますが、その辺のことを当時の江戸の風俗や文化のなかで小説仕立てに描いています。歴史小説の苦手な私でさえ、夢中で読んじゃいました。絶体、お薦めの小説です。タイトルは「るにんせん」(新風社)です。

 建築家・團紀彦もビッグ・ネームではあります。私も一度お会いしたことがありますが、お坊ちゃまです。團家の系譜って言うの、凄いモノがあります。曾祖父や祖父の代は三井合名会社理事長や東京帝国大学助教授、参議院議員、プリンス自動車社長、九州朝日放送会長などの肩書きだし、親戚にはブリヂストンタイヤ(現ブリヂストン)会長石橋幹一郎などがいて、政治家の鳩山家に繋がってます。自身も東京大学大学院修了後、米国イェール大学建築学部大学院を修了してます。現在は團紀彦建築設計事務所の所長、東大、東工大、慶応、昭和女子大などで講師も勤めているようです。1999年には日本建築学会賞なども受け、受賞歴も多々ある方です。私もこういう家系に生まれ、頭脳明晰だったらなー、何て思っちゃいますよね。

 今回ご紹介するビルは、このセレブリティ(Celebrity)が設計したビルです。こっちも優等生的秀作ではあります。明らかに名のある建築家の作であることが判るビルで、建築途中の「お知らせ看板」に團紀彦の名前を見つけ、完成を楽しみにしていたビルではあります。竣工は 2004 8 月で、ビル名を HOLON L/R と言います。道路側の1階には「±0(プラスマイナス・ゼロ)青山本店」とネイルサロン「Dashing DIVA」が入る(2010年3月現在は、テナント募集中で空いてます)テナントビルです。所在地は東京都港区北青山3-12-12、新しくできた紀伊国屋ビルの裏の方です。

 で、建物ですが、中庭を持つ一つの建物のように見えますが、実は2つの建物です。HOLON L/R L/R の意味は左/右ですね。両方共に鉄筋コンクリートの3階建てですが、若干L棟の方が大きくなってます。隣接する土地2人のオーナーからの依頼で設計・建設したみたいですね。抜群の相乗効果を発揮して2倍以上いい建築空間を作り出してます。竣工後は入るテナントの意向でオーニング(日除け)やピンクの袖壁などが取り付いてしまっています(今はない)が、当初の團紀彦の主張は減じてはいない印象です。

 境界を跨ぐ建築の可能性や、それぞれが独立しながら共通の中庭と連続したファサードは街並みに新たな刺激を与えています。中庭をはさんで、道路側と奥の部分の両方を一つのテナントが持ち、左右それぞれが独立しています。シンプルな造形、ファサードの連続性には非常に好感が持てます。通常ばらばらになってしまう隣接するビルの境界線に公共性を持たせ共通の中庭へのアプローチとしているのは秀逸です。中庭の右手奥にはコーヒーショップがあって、私も何度か利用してます。

 表参道界隈の裏道に建つ珠玉の建物ではあります。こういう建物が点在しているのが表参道です。メインの通りだけでなく、歩いた事のない通りに足を踏み入れると、新たな発見を経験できます。


必ずこちらもお読み下さい。写真はまとめてここにあります。

この原稿は、下記の人気サイト「おもてサンド」の「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。

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