
レモンツリー表参道 岸和郎
ルナ ディ ミエーレ 表参道ビル
以前から気になっているビルがあるんです。表参道の交差点を赤坂方面に向かって直ぐの左側に小さなジュエリー・ショップがあって、そのビルなんですけどね。青山通りの反対側からしかビル全体は見えないんだけど、品のあるきれいなビルなんですよ。
調べてみると、あの凄い人が設計してることが判りました。岸和郎(きし わろう)という、京都の建築家です。建築家は東京にいるだけではない事を証明する、世界を股にかけた漂泊の人です。故郷や国境を飛び越え、グローバルに高い評価を受けている人で、日本では彼の作品集は余り見かけないですが、海外の出版社からは幾つか出ているようです。
UC Berkeley(University of California, Berkeley)やMIT(Massachusetts Institute of Technology)で客員教授までやってますから、おっスゲーじゃん、って感じです。京大の大学院を修了してて、現在は関西方面の建築の学校としてはダントツの京都工芸繊維大学で建築を教えてます。こういう人が設計した商業ビルが表参道にはあるんですよ。
京都の建築家であることを自覚し、あえて地方都市から世界をクールに見ているよう所があります。京都と言えども、紛れもなく日本の地方都市であり、経済規模は東京に比べればはるかに小さく、多くの建築家は圧倒的に仕事量が多い東京にその拠点を置きたがります。世界に目を向けようとすれば、やはり東京にいた方がはるかに便利なのは万人が認めるところですよね。しかし、彼は積極的に京都から日本を発信しているように感じます。日本を離れて生活すると、日本を客観的に見ることができる事は実感としてありますが、東京を離れていると、東京をクールに見ることができるのかも知れない。たぶんこの人は、そんな目で東京を見ているんだと思います。
カメラが好きな方はご承知かと思いますが、銀座にライカのショールームがあります。私も何度か足を運び、ため息だけ出して帰ってきてはいるのですが、そのライカ・ショールームのインテリアも彼の手によるものです。カメラ本体に負けず、羨望の美しいインテリアで、銀座の街並みにそのセンスの良さをアピールしています。趣味の良さは超一流です。
今回ご紹介する建物は、実に小さな5階建てのジュエリー・ショップ兼画廊です。今は「レモンツリー表参道」と呼ばれていますが、以前のビル名は「ルナ ディ ミエーレ 表参道ビル」でした。この名称で検索しないとネットからは設計者の名前は出てきません。敷地面積わずかに9坪(30.90㎡)の土地で、建築面積はわずかに7坪(23.81㎡)しかないんです。鉄筋コンクリート壁構造の3階建てを造り、その上に鉄板プレートを使って5階建てとしてます。狭いところにできる限り有効な床面積を確保したい工夫で、柱は1本もないと言う混構造のビルです。間口だけを見ると、奥行きはあるのだろうと思っちゃいますが、信じられないことに、間口の方が大きいんです。
是非、行ってみてください。ウソでしょ、と思えるほどに小さな商業ビルです。谷内六郎のモザイク壁画で有名な山陽堂書店から4軒目です。ここの並びのビルは全て奥行きがないんです。青山通り拡幅工事の犠牲になった土地です。裏に細い道があって、それぞれのビルの裏側が並んでますけど、この「レモンツリー表参道」ビルの裏は、まるで正面のように美しいです。きちんと処理されていて非常に好感が持てます。対面するファッション系の専門学校生やレストランのお客さんに失礼の無いような裏側の佇まいをみせています。
内部の写真も撮ってイイとのことで、無遠慮に撮りまくってきましたが、私の広角レンズでは限界がありました。鏡を随所に使い、狭さをだまし絵のごとくに払拭しています。ジュエリー・ショップとしては必要十分なサイズの店であるようにさえ感じます。4階、5階部分が画廊になってまして、ジュエリー・ショップのオーナーと親しい関係(店員談)にあるらしい作家さんの作品が並んでいます。
最上階の天井高は高く、6階までの吹き抜けとなっています。大胆に取った大きな開口が眼下の青山通りを見下ろしていて、そこにいるだけで気持ちのいい空間ができあがっています。アクリル素材という物の持つ魅力と魔力を引き出した、彼自身のデザインによるソファーが置かれています。誰でも自由にここまで入って来れるオープンなギャラリーですので、1階にいるお店の方に一声掛けて上がってみましょう。お店としては2階3階の商品も見てもらいたい関係もあって、上がっていただきたいんです。
岸和郎自信が雑誌・新建築(2005年3月号)で語っているように、あたりまえに求められる建築空間を実現しようとすれば、皮肉にも、あたりまえではない特異な工法・構造を採用せざるを得ない、と言うようなことを書いていますが、有能な建築家の控えめな発言です。この狭い土地で、柱や梁のない矩形の空間を実現することは大きな挑戦であることを、一般の方は承知・理解しません。人知れず、杭との関係において建物の自重を軽くするアイデアを練ったに違いないのです。その上に、細部のディテールにも彼のアイディアが読み取れます。夜のファサードをいかに美しく見せるかの腐心の跡も見え、ただただ脱帽の建物が表参道に建っています。設計したのは、京都にいるワールド・ワイドな建築家・岸和郎という方です。覚えておくべき日本の建築家のお一人です。
この原稿は、下記の人気サイト「おもてサンド」の「たてもの観察ゼミ」に紹介されたモノで、私が写真を撮り、文章を書いたモノをベースにしています。
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